小江戸とちぎの歴史を食でよりリアルに
なんでも〝ある〞、豊かな街のおもてなし

江戸から続く食の姿
小江戸・栃木市のもてなしグルメ

市長──小江戸・栃木市のもてなしグルメとしてスタートした「とちぎ江戸料理」も5年の節目を迎えました。おかげさまでとちぎ江戸料理を目当てに訪れる観光客も増えています。冬木さんには立ち上げ時からアドバイザーを務めていただいていますが、最初依頼を受けた時はいかがでしたか。

冬木──かねがね郷里にこれは!という名物を作りたい、それで郷里を元気にしたいと思っていましたから、とても嬉しかったです。しかも江戸料理。これはジャストミートの依頼と思い、喜んでお引き受けしました。と同時に、これは一つの商品を開発するというものではなく、栃木市という土地の魅力を最大限にアピールし、またそれ自体が市の魅力になっていかねばならないもの。その任務の大きさを思いました。

市長──現在、市内約20の飲食店で個性あふれるメニューが展開されていますね。難しいながらも、市の魅力を掘り起こしていただいたおかげだと思っています。

冬木──一つの名物を作るやり方は分かりやすく魅力的だと思いましたが、実際に飲食店の皆さんと親交を持つようになると、実は江戸料理がそこここにあることに気づきました。しもつかれをはじめ、八房唐辛子の佃煮や紅白なます、草団子、鯉の洗い、鯰の天ぷらなど、江戸時代に食されていた料理が日常的に食卓に上っていたのです。ですから、その姿をそのまんまとちぎ江戸料理の根底に据えようと思いました。そして、江戸時代に舟運の往来がもたらしたであろう、江戸の流行りの料理法の再現を試みました。「豆腐百珍」や「料理物語」など当時の料理本をもとにした再現にも取り組みました。

市長──せっかく訪れても、どこでも食べられる料理ではがっかりしますものね。これは皆さんが研究し続けて来られた成果ですね。

冬木──江戸料理の側面をうまく捉えてくださり、江戸人よろしく、自在な遊び心で江戸を感じさせる料理を創作されたお店もあります。

市長──ええ。私もいただきましたが、華やかでおしゃれだけれども、食材は里芋や味噌といった馴染みのもの。改めて江戸料理を作るということではなくて、これまで食べられてきたものの形を変えてアレンジされたということでしょう。感心しました。

舟運で栄えた商都

市長──栃木市は江戸時代、巴波川を通して舟運で栄えた商都です。栃木からは米や麻、木材などを運び、江戸からは日光御用の荷や塩など物が運ばれて来ました。物流だけではありません。鯉保旅館は料理人を江戸から連れてきたと片岡如松について書かれた小説で読んだことがありますが、人や料理、文化も互いに行き来していました。

冬木──お江戸と栃木市はタイムラグなく、同時進行でつながっていたのですね。

市長──ええ、日本橋江戸の町人文化がリアルタイムで栃木市でも花開いていたと言えると思います。数年前に日本橋架橋百周年を記念して、和舟で栃木から日本橋まで川下りを行うイベントがあり、私も乗船したのですが、名実ともに「小江戸栃木」はあったのです。

冬木──そうした史実の一つひとつを、小江戸の街しかり、巴波川の遊覧船しかり、歌麿まつりしかり、市の宝として何十年もかけて観光資源として育ててこられた先達たちがいらっしゃった。とちぎ江戸料理は、こうして築かれた土台の上に乗っていくグルメだと感じています。

市長──そうですね。今年から蔵の街歩きを着物で楽しんでもらおうと11月に「きものの日」ができましたが、小江戸の街を楽しむ様々な企画が生まれています。そして、これは市だけではできません。市民力と言いますか、市民の皆さんが街の良さをどう作り出すかを考えて長年取り組んできたからこそできることです。とちぎ江戸料理ができ、環境はより整ってきていると思いますね。

冬木──江戸の風情を感じるだけでなく、食べることでよりそのモードに近づいていける。とちぎ江戸料理が加わることで、栃木市の歴史をよりリアルに感じていただけるのではないかと思っています。

心が落ち着く街

市長──栃木市は恵まれた気候で自然も豊かです。県内でも農業の大きな産地ですし、沢山の魅力があります。それゆえ、分かりやすい特徴に結び付きにくいところもありますので、市では「aru」という冊子を発行し、内外に市の魅力を伝えています。

冬木──謙譲の美徳と言いますか、「何にもないところですから」と育ってきましたので、aruのポスターを初めて見た時、これは大転換だと思いました。そして、とちぎ江戸料理に関わってみると、素直な食材の美味しさだったり、真面目に作った味だったり、分け合う気持ちだったりと、本当に宝物が愚直に残っていた。これこそ、今の時代の一番のもてなしポイントだと私は思います。

市長── 地味かもしれませんが、栃木市はゆったりできる街です。また、今はどこに行っても同じような街の印象を残念がる人もいますが、栃木市は単なる観光地ではなく、そこに市民の生活の匂いがする。心が落ち着けるのが良さだと思っています。そして、それがとちぎ江戸料理の味にも現れているように思います。ぜひお越しください。

2019年12月 油伝味噌にて対談